『フライの雑誌第41号』の内容の一部

アメリカの竹竿職人たち プレビュー(4)
Glenn Brakett グレン・ブラケット
阪東幸成

 言うまでもなく、ウインストンという会社はやっぱり利益を追求する組織体であるんだ。だからそれなりにやらなくちゃいけないこともあるし、守らなくちゃいけないこともある。だけど、残念ながらその会社の論理にはまってしまうと失うものもある。そしてそれが伝統とか歴史とか、絶対に失ってはいけないものの場合もある。それがぼくらのケースだ。

クモの糸のナゾ
ほんとうに、クモの糸でティペットは切れるのか?

6Xの新しいティペットが、音もなく切れました
 真夏の小さな支流、垂れ下がる枝を手で払いのけながら、つぎのポイントに目をこらした。瀬の開きでかすかな飛沫が見えた。
 顔にへばりつくクモの巣をロッドで払いながら、フライの届く距離までストーキング。見れば、陽光を受けたクモの巣の向こうの日だまりの水面で、二五センチオーバーのヤマメがメイフライを追ってライズしている。それでは…この障害物を利用してフライを落としてやろう…と考えた。
 交換したばかりの6Xのティペットに結ばれたフライは#16のソラックスダン。慎重にキャスト。うまくクモの巣を支点にして落ちた…、と思ったら、のびきったリーダーがフーッと抵抗もなく切れた。フライは飛び去り、フライラインはだらしなく流れに落ちた。
 呆然としていると、ティペットを引きずりつつフリーに流れるフライを、ヤマメは疑いもせずパクリとやり、吐きだし、なにごともなかったように定位置にもどっている。
 なんだこれは? 白昼夢か! 手で引っぱってもなかなか切れないほど強度がある6Xがなんで? 

切なくて、楽しくて...南紀のタチウオ釣り 備前 貢

 光の輪を飛び越え、闇の中に飛んでいったシリコン製ストリーマーが、沈むでもなく浮くでもなく、ヨタヨタと小魚の群れを押し分けながら光の輪の中に入ってくる。周辺の小魚たちの緊迫した泳ぎ方とは裏腹なのんびりしたその泳ぎ方は、じつに間が抜けている。その時が。フライの真下から銀色の光の帯がズバッと急上昇してフライをひったくる。そしてガンゴンゴンと激しく首を振りながら、スポットライトの下で、タチウオのキリキリ舞い...

第三回トラウト・セミナー
「日本のフィールドでのキャッチ&リリースの有効性を探る」で語られたこと

 去る二月二二日(日)、トラウト・フォーラム主催による第三回トラウト・セミナー「日本のフィールドでのキャッチ&リリースの有効性を探る」が埼玉県伊奈町(県民総合活動センター)で開催された。
ここのところ、日本各地の釣り人グループが、より質の高い釣り場をつくりたいということから、マス類のキャッチ&リリース区間を設定するためにアクションを起こしはじめているが、それらの動きに対してトラウト・フォーラムは積極的なバックアップ活動をおこなっている。
 そして今はすでに、キャッチ&リリース区間を設定して三年たった北海道滝上町の渚滑川、あるいは昨年から区間設定を行った山形県寒河江川など、いくつかの釣り場では実際にキャッチ&リリース区間を設定したうえでの運営が行われている。
 まだまだ小さくはあるが、年を重ねるごとに、各地で質の高い釣り場をつくるための実績が確実につみかさなりつつあるなかで、重要な役割をはたしているメンバーが集まって語り合ったのが、このセミナーだった。ちなみに参加者は全国各地から約一〇〇人。そのうち約三割は水産行政関係者だった。

ライズ待ち 平谷美樹

 目覚ましは三つ欲しい。
 青く明け始めた街が、ディーゼルの黒煙とともに後方へ吹っ飛んで行く。
 朝一番。太陽が北上高地から顔を出すキッカリ一時間前。藤美川の一番堰堤の下のプール。カディスのスーパー・ハッチ。狂う山女魚。
 釣友からその情報を得たのは昨夜だった。
 狭いポイントだから明日はお前がやれよ、というありがたい申し出だったのに。興奮して眠れなかった。
 掛け時計の三時の音は覚えている。
 どうせなら眠らなければよかったのだ。二つ用意していた目覚ましをしっかり止めて寝ていた。
「くそ! いいかげんにしやがれよ!」
 自宅だったならば女房にやつあたりもできるが、単身赴任のわび暮らし。自分を罵倒する以外にない。
 アクセルを踏み込む。カーヴのたびにタイヤが鳴る。くたびれたパジェロのサスペンションはなんとか持ちこたえてくれた。
 ふつうに走れば一時間強かかる道程を、四五分で走り抜けた。
 堰堤脇の広場にパジェロを突っ込もうとすると、数台の先客の車が薄暗がりの中にうずくまっているのが見えた。
 畜生! 先客か!
 ここいらの釣り人は釣券を持っていないことが多い。こっちは年券の腕章を持っている。脅せばこっちの勝ちだ。
 急ブレーキ。白い車にぶつかりそうになりながら、二台の車の間に滑り込み、窓を開けながら怒鳴った。
「お前ら! 釣券持ってんのか!」 
 わたしの車のライトに照らされて先客たちの後ろ姿が見えた。
 五人の後ろ姿。並んでしゃがみこんでいる。いわゆるウンコ座りというやつだ。