いま私はけっこう疲れている。『フライの雑誌』次号第86号の

印刷はお盆休みにかかるので、入稿の締め切りが早い。これをお盆進行といい、当然原稿集めも前倒しになる。もちろん執筆をお願いする方々には前々から、「今回はお盆進行なのでいつまでに必ず原稿くださいね。」としっかりお伝えしてあるのだが、そこは『フライの雑誌』の寄稿者サンで、編集部の言うことをきっちり守ってくれる方ばかりであろうはずがない。

この際はっきり言っておくが、連載陣のなかでもS氏とM氏は、毎回毎回かならず絶対きっと原稿が遅れに遅れる。上善水如じゃなくて締め切りあってなきがごとしである。S氏とM氏の場合、なにが問題かと言って雲隠れするのである。電話に出ないのはもちろん、メールは返信なし、ファクス送っても届いてるんだかいないんだか(S氏宅は電話止まってるし)、とにかく連絡をプッツリと断つ。

連絡が途絶えて最初のうちは、正直腹が立つ。またか、またなのか、遅れるなら遅れるでそう言ってくれればこっちだって考えるのにと、毎度のことながらしてやられた思いで、くやしい。雲隠れの日々がさらに続くと、今度は、ひょっとしてS氏とM氏は、二人とも暑くて身体こわしたのかな、まさか死んじゃったなんてないよな、などとすごく心配になってくる。心配のあまり安眠できない日々が続く。

よくよく考えてみれば、S氏とM氏は結局こっちから逃げているだけなんだから、そんな相手の身を案じるなんて、なんと私はおめでたいやつだろうか。いずれにせよ、編集者をコロスには刃物はいらない。締め切り過ぎて消えればよい。因果な商売である。と、こんなことを書いていたら、M氏から2週間ぶりに電話があったよ! 私はできるだけ穏便に言う。

「おぉ、ひさしぶりだね、元気でしたかーあ?」

こんなとき私は自分を大人だなあと思う。すると電話の向こうから、かすかな安堵の色とともに、M氏のこんな弾んだ声が返ってくる。

「ハイ、元気です! なんとかやってます!」

おいおいおいおい、調子良くないかい、オマエ。