編集者が勝手に解説『フライの雑誌』第94号の読み方〈後半〉

『フライの雑誌』をこれまで読んだことのない方にも興味を持ってもらって、楽しく読んでもらうために、編集者が勝手に解説します。

前回はじつはヒヤヒヤしていましたが意外にも評判よかったようでホッとしました。今回はその後半です。さらに危険水位すれすれで走り抜けます。

057 優しき水辺87 斉藤ユキオ
・『フライの雑誌』で最長不倒個人連載の「優しき水辺」。もう21年も続いています。斉藤ユキオさんの作風を長年追いかけていると、何年かの周期でガラッと変わることに気づく方は多いはず。第93号の特集「東北へ行こう!」の時、編集部がなにも言う前から斉藤さんが「よかったらイラストを描きましょうか?」と申し出てくださったことを、わたしは一生忘れません。第87回目の今回は深い秋色が印象的な作品です。美術印刷で定評のある東京印書館さんが、美しい製版と印刷で原画の味わいを再現してくださいました。

058 人が作る虫、博物館のシマザキフライ
自然博物館の昆虫展で島崎憲司郎さんの『水生昆虫アルバム』と
シマザキフライが展示された

・フライフィッシャーなら誰しも注目する存在の島崎憲司郎さんが、公共の博物館からオファーを受けて、特別企画の昆虫展に新作のシマザキフライを提供。島崎さんのやることだから、ただフライをタイイングして展示するだけでは終わりません。世にも珍しい「毛鉤の行動展示」とは何か。夏休みの来館者層も意識した、島崎さんの新作シマザキフライとともにご案内します。フライの写真撮影は島崎憲司郎さんご本人。島崎ファンはぜったいに見逃せない記事です。
>経緯はこちらを。
茨城県立茨城自然博物館で、島崎憲司郎さんの『水生昆虫アルバム』と新作シマザキフライを展示!

060 隣人のフライボックス87
遠藤早都治さんのフライボックス
・本誌の名物連載「隣人のフライボックス」。じつはこのコーナーへ登場してくださる方への依頼は、フライボックスの中身よりもその方の人柄が優先されます。だもので、載せたあとで、失敗したナ、と思ったことも何度かあります。…というのは半分冗談(半分だけね)。今回登場してくださったのは、横浜でフライショップ〈なごみ〉を開いて一年たったばかりの遠藤早都治さん。「一緒に釣りに行きたいなあ」と心から思える方の一人です。そのくそまじめな人柄には多くの方が太鼓判を押します。フライボックスの中身もとっても魅力的でした。フライボックスは持ち主の人となりを表します。こわいですね。

064 最先端アメリカン・バンブーロッドビルダー・ストーリーズ4
Radical Bamboo(Modern American Bamboo Rod Builder Stories改題)
A.J.スレーマー A.J. Thramer 信念のブルーカラー・ロッドメーカー
Todd E. Arai Larson/永野竜樹
・連載の回を追うごとに評判がよくなります。世界最大のバンブーロッドフォーラム「The Classic Fly Rod Forum Forums」管理人のDr.Toddの手による書き下ろし。バンブーロッドの歴史と現代アメリカの竹竿事情に造詣の深い訳者の協力を得て、日本のフライフィッシャーへ、最先端のアメリカの竹竿職人の物語をお届けします。ぜひ第90号掲載の「現代アメリカの竹竿事情」(永野竜樹)とあわせてお読みいただくと、さらに深く面白く理解できるはずです。あなたの生涯の友となる、ただ一本のバンブーロッドに出会うための道案内です。

070 フライフィッシング狂4 あの日の木漏れ日を
戸出喜信
・パリ在住の世界的な洋画家、戸出喜信さんの文章での処女作品。戸出さんは富山県の宇奈月町出身で、希代の大物狙いのフライフィッシャー。宇奈月町といえば『宇奈月小学校フライ教室日記』です。知り合ってみれば、戸出さんはユネスコに依頼されて個展を開くような大画家である以前に、海を越えて深夜に釣りの話でぐわーっと盛り上がれる、ふつうのフライフィッシャーでした。いや、あまりふつうじゃなかった。本連載にも、戸出さんのまさに「狂気」のようなフライフィッシングへの傾倒ぶりが存分に発揮されています。
戸出喜信さんの画業はこちらで。
Yoshinobu TOIDE

※94号に掲載した戸出さんのプロフィールを訂正します。正しくは以下の通りです。たいへん失礼しました。
〈といでよしのぶ 1970年武蔵野美術大学卒。卒業と同時に渡仏。第28回ドービル国際展プルミエ・グランプリ、国際サン・ジェルマン・デ・プレ展金賞受賞など受賞歴多数。2008年パリ・ユネスコ本部にて『水、生命の源』展。2010年黒部市に『黒部川〈日本アルプスを流れる川〉』を寄贈。 日本橋三越で1995年から2年に一度個展を開催。富山県黒部市旧宇奈月町出身。〉

076 人生にタックル36 峰  カブラー斉藤
・『フライの雑誌』で好き嫌いのはげしい連載ナンバーワンといえば、まちがいなくカブラー氏。かつての常連寄稿者さんにも、ひどいカブラー嫌いの人がいました。だけどカブラー氏のほうは、もともとその人の連載が大好きで、仕事も尊敬していた。ま、片思いですね。で、とあるイベントの時にシャイなカブラー氏が勇気をふるって、乙女のようにドキドキしながらあいさつしに行ったら、つめたーく無視されたとか。泣きたくなるような光景が目に浮かぶ。ちなみにその人は、「なんでカブラーなんかの原稿を載せるんだ、ボクはもう『フライの雑誌』には書きません」と言って、第62号をさいごに去って行きました。去る者は追わず。さて、カブラー節は今号も冴え渡っています。今回は禁煙ファシズムに文句つけています。色んな意味でこんなギリギリの文章が書けるのはカブラーならでは。根性座ってます。表現者は表現でたたかうのです。

082 復活! きたりもん釣り倶楽部 第9回 猿の手
樋口明雄

『約束の地』で大藪春彦賞を受賞した作家、樋口明雄さんの最新作。去年、作家生活初めてのエッセイ集『目の前にシカの鼻息』を小社から出版してくださった樋口さんは、今年も立て続けに新作をリリース。いまノリにノっている作家さんです。『フライの雑誌』連載の「きたりもん釣り倶楽部」シリーズは今号が久々の登場。おなじみの登場人物たちがあいかわらずの予想外な活躍を見せてくれます。フィクションの楽しさをぞんぶんに味わえる一作です。

・・・さて、長々と書き連ねましたが、『フライの雑誌』94号の読み方〈後半〉もこれでおしまい。最後までおつき合いいただいた皆さま、お疲れさまでした。そしてありがとうございました。

つづいてぜひ『フライの雑誌』94号をお手にとってください。なんのためにわたしが釣りにも行かないでこんなのダラダラ書いたと思っているんですか。

寄稿者の皆さん、勝手なこと書きましたがおこらないでくださいね。しょせん釣り雑誌ですから。

(編集部/堀内)