池を作ろうと思う。50

この季節は日一日と、春が濃くなってゆく。池をのぞけば一昨日よりも昨日、昨日よりも今日のほうが、あきらかに活気がある。ここは豊かないのちの泉だ。

冬のあいだ、死んだように水底で折り重なっていたマツモの切れっ端たちは、急に緑の色を増した。いまや我先にと手足を伸ばし、いよいよ水面を目指そうとしている。エビたちは何を考えているのかわからないが、とりあえず水中を泳ぐ速度が上がった様子だ。

水面をとびまわるフックサイズ#60くらいの極小の双翅目へ、メダカとハヤの子どもが盛んにライズする。あ、食った。

アブラッパヤと大きめのハヤのお兄さんは、ときおり物影からとびだしてパシュッ、と何かをとらえる。ふだん姿を隠しているのは、上空からのカワセミの襲撃をおそれているのだろう。「おれが生き残ってこられたのは、うさぎのように臆病だったからだ。」とゴルゴは言った。がんばれ。食われるな。カワセミは他のえさ場へ飛んでゆけ。

今朝、ヤンキースのマー君が2勝目をあげたニュースを見た。さっきまでわたしは、(マー君はすごいな。おれもヤンキースに入りたいな。)とか、(マー君になりたいな。里田まいでもいいけど。)とか考えていた。あと(ハンカチ王子もオボちゃんもがんばれ。サムラゴーチとバナメイエビはどうした。)とか。

わたしはいま、池の畔でコーヒーカップを片手に、まるでご隠居さんみたいに座り込んでいる。池のなかの生きものたちの、生きるよろこびに満ちた春の舞を眺めているうちに、わたしはだんだんそわそわしてきた。そして思った。

(里田まいになりたい)じゃないだろう。なれるわけないでしょ。そうじゃなくて、わたしも生きているうちに、もっと仕事しよう。ヤンキースから声がかからないのなら、わたしがヤンキースになればいい。わたしだって西平山のマー君だ。

次は『里田まいと池を作りたい』というタイトルの、さらにあやしげな本を書こうと思う。

今年は『里田まいと池を作りたい』というタイトルの、さらにあやしげな本を書こうと思います。
今朝の池の様子
葛西善蔵と釣りがしたい
『葛西善蔵と釣りがしたい』|堀内正徳