【特別公開】小国川ダム問題:ダムに反対するなら漁業権を不許可にするぞ、 と山形県が漁協を脅した結果…(『フライの雑誌』第101号)

山形県による小国川漁協への小国川ダム強要問題は、前漁協組合長の自殺というたいへんな悲劇をうみました。しかし山形県はダム推進の姿勢をなお崩していません。一貫してダムに反対してきた小国川漁協にとって、状況はきびしさを増しています。

『フライの雑誌』第101号(3月15日発行)掲載、[ダムに反対するなら漁業権を不許可にするぞ、と山形県が漁協を脅した結果… ]の全文を以下に公開します。

>参考資料1 ダムに反対するなら漁業権を不許可にするぞと、山形県が脅している。(まとめ) 
>参考資料2 [漁業権人質の恫喝~最上小国川ダム ダム反対の漁協組合長 自殺のナゼ](2014年4月6日 東京新聞 こちら特報部)

※本記事に興味を持って本誌の視点へ賛同してくださった方は、できればぜひ第101号をお手にとってくだされば助かります。(編集部)

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〈以下本文〉

日本釣り場論73

まとめ= 本誌編集部

山形県最上小国川ダムと最上小国川漁協

ダムに反対するなら漁業権を不許可にするぞ、
と山形県が漁協を脅した結果…

山形県の最上小国川は、天然アユとサクラマスが遡上する美しい川だ。山形県はこの小国川に小国川ダムを計画している。小国川の漁業権をもつ小国川漁協は、ダム計画が起こった当初から、一貫して反対しつづけている。

小社刊行単行本『桜鱒の棲む川』(水口憲哉2010)では、「ダムのない川の「穴あきダム」計画を巡って」というタイトルで一章をつくり、小国川ダムを批判している。本誌既報のように、岩手県気仙川で建設途中だった津付ダムは、東日本大震災の影響を理由として建設計画がとりやめとなった。理由はどうあれ、建設途中のダム計画が途中でとりやめになることは、きわめて異例だ。

ダムのような大型公共工事が真に流域住民のためでなく、建設費目当ての「ダムを作りたい人々」のために、押しつけられているものだということが、隠しきれなくなっている。現在の日本社会において、もはやダムの時代は終わっている。

 許認可権は行政の最大の権力だ

しかし既得権益にしがみつきたい層はあらゆる手段と権力をもって、自分たちの要求をゴリ押ししてこようとする。許認可権は行政のもっとも大きな権力だ。

最上小国川ダム問題においては、昨年2013年末に大きな動きがあった。ダムを作りたい山形県が、10年に一度の漁業権認可をたてに、ダム反対の小国川漁協を脅した。漁業権と漁協、行政の法律的な関係については、本号16ページ水口憲哉氏の「釣り場時評」をご参照ください。

本欄では、結果的に大きな悲劇を生み、かつ、大きな悲劇があったにもかかわらず、まったく反省の色が見えない山形県の〝ダム行政〟がなにをしてきたのかを、時系列に沿って記録する。とくに昨年末、山形県行政が漁協を脅していることが暴露されて以降、それを批判されての県行政と県知事の右往左往、隠ぺい工作、官僚対応は、ひどいものだった。

まず、小国川漁協と連帯してダムに反対している[最上小国川の清流を守る会]が2013年10月5日に開催した「ダムと観光振興!? 川と温泉の振興策を考える全国集会」へ、フライの雑誌社が送ったメッセージの一部を紹介する。

…ダムの建設を阻止できる唯一の法律上の権利は、漁業権です。小国川漁協さんは一貫して、最上小国川ダムの建設に反対しておられます。漁協さんがダム建設を拒否し続ければ、ダムは絶対にできません。…ダムの建設で、得るものもあるかもしれません。しかしそれに比べて失うものは、あまりにも大きすぎます。私たち大人が、次世代を生きる子どもたちへ残したいもの、残さなくてはいけないもの、それはダムのない美しい清流、最上小国川ではないでしょうか。

 「ダム建設への配慮を見せろ」

    ダム計画に「配慮しろ」という言い方は、
    「誠意を見せろ」と言って要求を呑ませようとする、
    反社会的勢力のやり口そのものだ。

2013年12月18日。山形新聞が「最上・小国川漁協、漁業権消失の可能性 県の条件満たさず」の見出しで、漁業権をたてにした最上小国川への山形県の〝脅し〟を初報道した。

〈県農林水産部の幹部は「漁協に『ダム計画に賛成しろ』と言っているのではない。配慮するという言葉の『担保』を示してもらえれば漁業権は付与できる」と語る。〉

ダム計画に「配慮しろ」という言い方は、「誠意を見せろ」と言って要求を呑ませようとする反社会的勢力のやり口そのものだ。

フライの雑誌社は即日、フライの雑誌社ウェブサイトに、〈ダムに反対するなら漁業権を不許可にするぞと、山形県が脅している。〉というエントリを設置。以降、新しい動きがあるごとに情報を更新した。同日、「月刊つり人」山根編集長がブログで、「このような暴挙がまかりとおるような国に明るい未来は決してないと断言できます」と発言した。

12月19日。朝日新聞が「小国川ダム問題 県、漁業権更新見送りも」という見出しで、山形新聞の後追い記事を掲載した。漁協内のとりまとめ役である、沼沢勝善・小国川漁協組合長の記者会見時の写真が掲載されている。朝日新聞がとりあげて小国川ダム問題は全国化した。

沼沢組合長はダム反対運動の中心的な存在だ。2012年11月の「沼沢組合長と語る夕べ」ではこのような発言をしている。〈漁業組合はダムを作られては困る。ダムを作る正当な理由があるならば、反対だけをするわけにもいかない。しかしダムに代わる何らかの対策があるのならば、ダムへ反対し続けてもいいのではないか。ちゃんと皆さんに理由を話せば分かってくださるはず。〉(大意)

12月19日。本誌編集部の発言。〈山形県による〝小国川漁協いじめ〟が世論の反発を呼んでいる。せっかく盛り上がっているのにしちめんどくさいことを言うようだけれど、日本全国の漁協がすべて小国川漁協のように、河川環境に自覚的で、漁協運営に自律的で、行動的なわけではない。現行の漁業法、漁協のシステムには問題がたいへん多い。漁協=善、では決してない。全国の漁協が本来的に機能してきたならば、日本の川はこんなひどいことになっていない。〉

 全国的な批判を受けて「認可」へ

12月20日。一気に全国ニュースになったことと、山形県がまともな対応をしないために、情報が錯綜した。

長年小国川ダム問題に関わっている山形県議の草島進一氏が、小国川漁協の記者会見を山形県農水部が妨害していた事実を告発した。〈今般の山形県の行為は行政手続きを著しく逸脱した不法、不当行為であり職権の乱用行為ではありませんか。文書での回答を求めます。〉
公開質問状を提出した。

12月21日。ジャーナリストのまさのあつこさん発言。〈山形県は、「漁業」という公益と、「治水」という公益の調整に失敗。そして今、「漁業権」を人質に、その剥奪をほのめかすというテロリストのようなやり方を始めている。〉

12月24日。沼沢組合長らが県庁を訪れ、五十嵐和昌県水産課長に「回答書」を手渡した。〈ダム計画自体は「自然環境は金では買えない」「県の説明は信じられない」などと疑問視し、反対姿勢を崩さなかった。〉(河北新報)

同日、ダムを推進している吉村美栄子山形県知事が、定例記者会見で山形県行政の横暴を問われ、言語不明瞭な態度で逃げた。吉村知事はダム建設を強行したい役人と業者の代弁者のようにみえる。

同日、本誌編集部の発言。〈山形県は漁協など漁業権で脅せば、かんたんに押しきれると思っていたのだろう。そこがまさに山形県の横暴であり、ダム建設側の本音だ。公益は住民・利用者みな平等に図られてこそ公益である。山形県に理はない。小国川漁協へ漁業権を認可するかどうかを決める山形県内水面漁業調整委員会は、25日に開かれる。〉

12月25日。漁業権の免許更新に関する意見を知事に答申する県内水面漁場管理委員会が開催された。前日24日の時点で、開催延期の情報も一時流れていた。山形県のうろたえぶりをよく示している。

傍聴者23名を集めて、午後2時から開かれた山形県内水面漁場管理委員会は、議論なしで小国川漁協の漁業権を認可した。漁業権認可をたてにとってダム反対の漁協を脅した山形県行政は、全国的な世論の批判を受けて、なにもできずに逃げ出した。

 非公開の場で何が行われたのか

年が明けて、2014年1月28日。草島県議のフェイスブックから。
〈最上小国川流域の治水対策等に関する協議が最上総合支庁でおこなわれています。会議は非公開。議員の調査としての傍聴も拒否。資料は漁協側、県側で提示。終了後の会見も同席拒否。〉

山形県は、漁協と直接〝協議〟をすることで、ダム建設を強要する方針に変えた。会議は非公開。権力者が主導して密室で行う〝協議〟は恫喝と同じだ。いわば漁協のつるし上げが行われていたのではないか。

2月10日。小国川漁協の沼沢組合長が自殺した。12日の朝日新聞は次のように報道している。

〈ダム建設に反対 小国川漁協組合長自殺 漁協が「公益に十分配慮する」と明記した文書を県に提出したことで漁業権は更新されたが、県は中断していた協議の再開を要求。漁協が応じる形で、1月28日に初会合が開かれた。沼沢組合長が命を絶った10日は、第2回の協議に向け、漁協で県との打ち合わせが予定されていたという。しかし、この協議は県側にとって、ダム計画への漁協の理解を得る場。漁協側の求める「ダムによらない治水対策」の再検討には否定的で、吉村美栄子知事はこれまで「しっかり説明し、理解を頂きたい」と繰り返している。関係者は「年末からの一連の騒動で、組合長に深刻な疲れがたまっていた」と口をそろえる。〉

新聞、テレビニュースでも大きく報道された。

2月18日。「最上小国川の清流を守る会」と「水源開発問題全国連絡会」が、問題の本質は、小国川漁協に対する山形県の最上小国川ダム建設への同意強要にあるとして、山形県知事への「抗議と要請」を行った。

2月20日。山形県議会2月議会にて平成26年度当初予算が示された。草島県議の報告によると、小国川ダム予算2億4千540万円。県道耐水化工事、転流工工事の整備、水門調査。あわせてダム本体工事に関わる36億2千万円の債務負担行為を設定する議案が、山形県から提出された。

大きな悲劇を引き起こしたにも関わらず、漁協のはっきりとしたダム反対の意向を無視するかたちでの予算計上には、あいた口がふさがらない。

 漁協が反対すればダムはできない

    漁協を踏みつぶして、ダムをごり押しして、
    なにが生物多様性だろう。
    生物多様性をもっとも破壊しているのは、
    他ならぬヒトである。

2月21日。山形県は、「山形県生物多様性戦略(案)」パブリックコメントを始めた。漁協を踏みつぶして、ダムをごり押しして、なにが生物多様性だろう。生物多様性をもっとも破壊しているのは、他ならぬヒトである。

内水面において、申請のあった漁協の漁業権を漁場管理委員会が却下したことなど、今まであったのだろうか。

漁場管への諮問は実質的にセレモニー化している。にもかかわらず、今回山形県は漁業法の枠組みを利用して、小国川漁協を脅した。そして批判されると逃げ出したふりをして、漁協を言いなりにしようと地下で画策した。ダム建設のためには何でもする山形県のあくどさが際立っている。

小国川漁協がダム建設に反対しつづけている限り、周辺工事で圧迫することはできても、山形県はダム本体の建設には着工できない。

漁業権で漁協を脅した山形県の目論みは、結果的に破綻した。世論が県の横暴をつぶした。しかし山形県はなおダム建設を全くあきらめてはいない。この先も山形県の動きを注視する必要がある。

今回の問題で、山形県行政の暴力性がさらされたことで、山形県のイメージは全国的に急降下した。県民は大いに県行政へ文句を言っていい。

本報告の最後に水口憲哉『桜鱒の棲む川』から、以下の一文を紹介する。

川の漁業協同組合が結束して補償交渉に応じない限り、ダム建設はできない。紀伊丹生川、愛媛県の肱川、川辺川ではそのようにしてダム建設が止まっている。
小国川漁協はそのことを知って、なおいっそう元気に川と釣り場を守る意思を強くしている。そんな小国川漁協の取り組みを多くの釣り人が支援することが、これからも楽しい釣りを続けてゆくことを可能にすると思う。
日本の多くの釣り場が釣り堀化してしまったことで、釣りが面白くなくなったという声が聞こえてくる。だがそう嘆く前に、まだまだ面白い釣りのできる自然の川や湖を残して、活かすことを考えよう。本当の釣りはどういうものかを探し求めたい。 (『桜鱒の棲む川』47ページ)

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文責 堀内正徳
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『フライの雑誌』第101号記念号 日本釣り場論より
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