「宮城県内の渓流釣りフィールド 釣り自粛要請等の状況について」(読者レポート)

宮城県在住の本誌読者から、宮城県内の渓流釣りフィールドへの放射能汚染の影響をまとめたレポートが送られてきた。本サイトでは、東日本の各都県を対象に〈川と湖の魚の放射能汚染まとめ/放射能汚染を釣り人としてどう受け止めるか〉という記録を随時更新しているが、日々刻々と変わってゆく状況を網羅しきれていない。宮城県内での事象をこまかく整理してくださった細田氏に感謝する。以下、そのレポートを細田氏の了解を得て紹介する。

東北の渓流釣りはこれからのひと月が一年でもっともすばらしいシーズンだ。これから宮城県で釣りを楽しもうと考えている方へお役に立てばと思う。

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宮城県内の渓流釣りフィールド 釣り自粛要請等の状況について

細田研吾(宮城県仙台市青葉区)

東日本大震災の発生から1年2ヶ月が経った。福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質は各地に拡散し、宮城県内の農林水産業、遊漁へ多大な影響を及ぼしている。

食品中の放射性物質については今年4月1日に新たな基準値が適用された。宮城県では各種農林水産物の放射性物質を測定し、その結果を随時集計公表している。万一基準を超える数値が検出された場合には流通しないように生産者や流通関係者への通知を行う体制を整え、県産食材の安全性を確保してきている。渓流釣りの対象魚であるヤマメやイワナでも、基準を超える値が検出された場合には、採捕自粛などの要請がなされている。

5月29日までに発表された宮城県のプレスリリース内容より、現時点での釣り場の状況をまとめてみた。宮城県サイト中の「プレスリリース」より、今年4月以降の内水面魚種に関するリリースを情報のソースとしている。

「採捕自粛要請」と「出荷制限」はどう違うか

通知内容の詳細について【表1】にまとめた。通知には「採捕自粛要請」と「出荷制限」の2種類があり、各々の意味合いは以下の通り。

採捕自粛要請=県が漁協や市町村に対して「採捕しないよう要請」する

出荷制限=原子力災害対策本部(内閣総理大臣)が県に対して「出荷を差し控えるよう指示」し、それに基づいて県が関係漁協や市町村に対して「採捕しないよう要請」する

採捕自粛要請は全て検査結果が判明した日にリリースされているのに対し、出荷制限は数日後に出されている。対象エリアについては採捕自粛要請と出荷制限において若干異なるケースがあるが、これは魚類の往来を妨げる河川構造(ダムや滝など)について検討したためと考えられる。

要請の根本が県なのか原子力災害対策本部(内閣総理大臣)の指示なのかにおいて違うように感じられるが、最終的な内容はいずれにしても「県からの要請」であり、その点では「採捕自粛要請」でも「出荷制限」でも漁業者・遊漁者への通知内容に変わりない。

現在までのところ、採捕自粛要請が4件、出荷制限が4件で内水面魚種に関しては合計8件が通知されている。内、4月の通知は1件のみ。残り7件は5月の通知となっている。内水面魚種としてイワナ、ヤマメの他、ウグイについても併せて記載した。 【表1 宮城県プレスリリースのまとめ】

汚染魚は県内にまんべんなく分布している

宮城県は福島第一原子力発電所の北北西に位置し、近い所で約50km、最北部でも200km程度の距離がある。県西部の奥羽山脈を源頭に多くの河川が東に向かって流下しているが、県北の北上川は岩手県より南下、また県南の阿武隈川は福島県より北上して流れ、各々石巻市、亘理町で太平洋に流れ込んでいる。

基準値を超えた検体が捕獲された場所を見ると、南は阿武隈川の支流、中央部では阿武隈川水系の末端支流(澄川)や広瀬・名取川水系に、また北部では北上川水系の迫川の他、三陸沿岸単独河川(大川)にも見られ、県内全域にほぼまんべんなく分布している。

放射性物質の代謝経路や魚種による取り込み・蓄積の違いについてなど不明点も多くある。これだけのデータで安易な推測を行うことは戒めなければならず、今後の動向を見守っていきたいと思う。

食材王国みやぎのブランドを守る

現時点での最新通知である5/28の出荷制限にも記載されているが、「漁業権行使規則および遊漁規則に基づくキャッチ・アンド・リリース区間については遊漁は可能」となっている。また通知を読み解いてみると、イワナの採捕自粛が要請されているエリアにおいて、ヤマメの採捕は言及されておらず、また同様にウグイが対象のエリアにおいて、ヤマメやイワナについての言及もなされていない。

一方で遊漁者に対して直接的に指示する立場である漁協からのアピールでは、様々な表現でのポスター掲示が見られ判断に苦しむ所でもある。(写真1、2)。(本稿の内容正誤確認のため県庁を訪れた際に聞いてみたところ、県ではこういった看板の問題点を認識しており、今後指導していくとのことであった)

自粛要請の本質を振り返ると、「食品としての流通ルートにのせない!」ことが根源になっていると思われる。食材王国みやぎとしてヒトも産業も復興に取組んでいる最中において、食の安全性を脅かすことがないように行政側としても監視体制を整えているのが現状のようだ。

「釣り」というレジャーから万一基準値を超える個体が食材として流通してしまうことで、「みやぎ」というブランドが傷ついてしまっては、復興を緩める一因になりかねないと懸念しているのではないだろうか。

宮城県内で釣りを楽しむみなさんへ

現時点ではまだリリースを前提とした遊漁は否定されておらず、また自粛要請エリアも水系における魚類の往来を加味した最小限のエリアに留める検討がなされているように感じる。しかし、今後もし遊漁から規制値超え食材の流通などが起こってしまったら、遊漁への規制強化も十分に考えられるだろう。

本稿の読者諸氏においては、「釣り」が衣・食・住に並ぶ重要度に位置するという価値観を有する方も少なくないかもしれないが、やはり一般的社会においては「釣り」の重要度は衣食住よりも数段下がると評価されざるを得ない・・・のだ。

宮城で釣りをして下さる皆様には現状を十分理解して頂き、釣りをするフィールド選びやキャッチアンドイートの判断の一助としていただければと願う。

最後になるが、本稿の内容正誤について確認の為に県庁を訪れた際、宮城県農林水産部水産業振興課の小林技術副参事殿にご協力とご指導を頂いた。この場を借りてお礼申し上げたい。(細田研吾)

上:名取川本流(写真提供=Abraxas-fly anglers support)  下:名取川支流本砂金川
『淡水魚の放射能―川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉著)
『淡水魚の放射能―川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』(水口憲哉著)