「放射能を海へ棄てないでください」(水口憲哉)全文無料公開。

東京電力原子力発電所の事故に関して、原発近くの海水から採取された海水から、基準濃度の1250倍の放射性物質が検出されたと報道された。朝日新聞の記事では、「この濃度の水を500ミリリットル飲むと、一般人の年間限度にあたる1ミリシーベルト程度を被曝(ひばく)するが、ヨウ素131は放射線量が半分になる半減期が8日と短い。」という原子力安全・保安院のコメントがつけられているが、実態はどうなのか。

原発事故発生からこれまで、政府・東電・保安院が三位一体となって、放射能事故のデータ隠し、ウソ、隠ぺい工作を続けている。まさにこの期に及んでまで、という表現がふさわしい。国民の怒りは爆発寸前である。

フライの雑誌社では季刊『フライの雑誌』2007年11月第79号に、「放射能を海へ捨てないでください。六ヶ所村再処理工場の何が怖いのか。」という水口憲哉氏(東京海洋大学名誉教授/資源維持研究所主宰)の講演録を掲載した。

青森県六ヶ所村で稼動が予定されている再処理工場からの廃液が、流れ流れて関東までやってくること、その放射能によって、私たちの身にいったい何が起こるのか。すでに再処理工場があるイギリス・セラフィールドで起きている子どもたちの悲惨な実例を挙げて、「だから放射能を海へ捨てないでください。」と訴える内容だ。掲載時には大きな反響があった。

本日編集部では水口氏に電話で話を伺った。水口氏によると、現在福島第一原発で起こっている状況は、〈六ヶ所村でのおそろしい廃液放出が、もっと大きなスケールで、突然に、もっと南で起こってしまった。〉ものだと言えるとのことである。海へ放射能が垂れ流されていることの意味、その健康への影響、海の魚を食べていいのか、子供たちへの被害など不安や恐怖は尽きない。

マスコミ報道には載らない真実もある。たとえば福島第一原発3号機は、プルサーマル発電といって史上最悪の毒物プルトニウムを使っていたのだが、ほとんど報道されていない。3号機では先日、原因不明の「灰色がかった煙が上がった」と発表があった。その記者発表の場でもプルトニウムとの関連性は一切触れられなかった。そこにどんな意図が隠されているのか。

政府と官僚と電力会社は長年に渡って、〝原発は安全だ〟と、私たちをだまし続けてきた。しかし、まったく安全ではなかったことが証明された。起きてはいけない、起きるはずのない事故が現実に起こり、しかもどう収拾するかが、政府にも電力会社にも分からない。

今回の東電事故を受けて、世界は日本よりもはるかにこの原発事故に注目している。それだけ原発のおそろしさを知っている。すかさず原発の停止を発表したドイツのような国もある。

しかし当事者国の日本では、これだけの終末的な事故があったにも関らず、いまだひとつの原発も止まっていない。今止めなければ、永遠に止まらないだろう。

いかな天災も人類の英知と勇気があれば、いつかは乗り越えられるに違いない。しかし、人類は自ら作り出した放射能という名の恐怖からは、ぜったいに逃れられない。

いままだ進行中で、おそらくはこの先10年単位で監視していくことが必要な原発事故に対して、私たちが知っておいた方がよい知識がある。自分の身を守るために、子どもたちの未来を守るために。

「放射能を海へ捨てないでください。六ヶ所村再処理工場の何が怖いのか。」記事全文(pdf版)(『フライの雑誌』第79号/2007年11月掲載)

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