【特別公開】これからどうなる、どうする〝海の放射能汚染〟 放射能に立ち向かうために知っておくこと(水口憲哉)

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※PART-3 更新(8.25)
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【本サイトをお読みの方々へ】

福島第一原発の放射能汚染は、これから何十年も消えません。政府の公式発表があまりにも場当たり的で、頼りにならないことは、みなさんご存じの通りです。

すでに始まっている放射能汚染から身を守るために、まずは、ご自身で信用できる情報を集めることが第一です。そして最新の状況を自分で把握し、自分の行動を自分で決めていくことです。

以下、『フライの雑誌』第93号掲載〈水口憲哉・緊急インタビュー〉PART-3をご紹介します。皆さまに少しでも役立てれば幸いです。(『フライの雑誌』編集部)

※ここまでのいきさつを解説したリード文はこちらで公開しています。

本文項目一覧
●地獄の釜のフタは開いたばかり
●基準値はでたらめだ
●「国が安全だと言っているから危険」
●魚は放射能を濃縮する
●もう元には戻れない
●なぜ怒らないのか
●「ただちに」何かは起こらない
●日本中で魚はきびしくなる
●原発周辺の渓流はどうなっているのか
●それぞれの判断で放射能へ立ち向かう

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※以下、本文PART-3
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水口憲哉・緊急インタビュー
〈これからどうなる、どうする〝海の放射能汚染〟
 放射能に立ち向かうために知っておくこと〉
 PART-3

水口憲哉(東京海洋大学名誉教授/資源維持研究所主宰)

大型の魚食魚であるクロマグロは、脂の多い部分(トロ)に
とくに蓄積されます。マグロは太平洋側と日本海側を行き来しますから、
日本海側も福島の放射能で汚染される可能性があります。

日本中で魚はきびしくなる

水口 これから5、6ヶ月から9ヶ月たったら(編注:5、6ヶ月とは、2011年10月、11月ころを指す)、福島の放射能がどこまで流れていくかの結果が出ているでしょう。漁民も消費者も、水産物の放射能汚染が現実化したときに放射能に対応するしかない。 (※8)

─ きびしいですね。

水口 きびしいです。日本中で魚はきびしくなるでしょう。放射能に立ち向かうとはそういうことです。 海のなかでも海流の影響などで放射能だまりの場所があります。そういう場所で生活している魚は強く汚染されます。

水口憲哉氏

 大型の魚食魚であるクロマグロは、脂の多い部分(トロ)にとくに蓄積されます。マグロは太平洋側と日本海側を行き来しますから、日本海側も福島の放射能で汚染される可能性があります。一般に肝臓には放射能がたまります。イカは筋肉には蓄積しづらいのですが肝臓にはたまる。つまりイカの塩辛です。

 グリーンピースが流れ藻のアカモクから放射性ヨウ素を検出したと発表しました。海水が高濃度に汚染されているので当然です。ヨウ素は海藻で一万倍に濃縮されます。水産庁が「浮遊物を対象にした調査はしない」と言っていますが、それは違う。自然の中に放射能がどう広がっていって、どう蓄積するかを見る。自然の中の一部を私たちは食べて利用しているわけです。

 過去にグリーンピースが伊豆で漁民がつかまえたイルカを逃がしました。そのときに「このイルカは水銀に侵されているから食べるとたいへんだ。だから逃がした」と言った。しかし本当にイルカを保護したいのなら、イルカ自身への影響を心配するべきでしょう。目的のためにイルカを道具に使うようなことをしてはいけない。人々の関心は魚への汚染の影響ではなくて、魚を食べた人間の影響が心配なんです。

原発周辺の渓流はどうなっているのか

─ 5月になって、鮫川のアユとヤマメ、桧原湖のワカサギから放射性セシウムが検出されました。淡水魚で放射能が出たのは初めてでした。海と比べたら渓流は水が常に流れているので汚染も低いと思っていたんですが。

水口 海だって水は流れています。同じです。チェルノブイリでは湖や川の魚に関する調査報告は多いので、それを見れば色々なことが分かります。

─ 原発事故以降、釣りをしていてもなんとなく水がぬるっとしているような、深呼吸しづらい、嫌な感じを持っています。原発周辺にはいい川が多い。サケ釣りで人気だった請戸川、木戸川の下流域は放射能汚染がひどいということで立ち入り禁止になりました。高濃度の放射能に汚染された川の魚、虫、草木はどうなるんでしょう。死んでしまうのでしょうか。

水口 汚染しているだけで、魚の生態への影響はあまりないと思います。このことは調べられていないのでよくわかりませんが。それよりも津波で海の水が逆流した影響が川に出ているかもしれない。ただし生物がすぐに死ぬことはなくても放射能の影響は出てくるでしょう。

これから起きてくる自然のなかの小さいけれど
大きい変化は、ふつうの人が肌身で感じとれます。
それぞれの立場と判断で、長い時間を放射能に
立ち向かっていかなければならないということです。

それぞれの判断で放射能へ立ち向かう

─ チェルノブイリ・アントというフライパターンがあります。ふつうはありえないサイズの、巨大なアリの毛鉤なのです。

水口 それはゴジラが生まれたということでしょう。ゴジラじゃなくても、ほとんどの人が気づかないことに変化が出てきます。たとえば、通常運転している原発であっても、原発は日常的に放射能を空気中へ捨てています。原発の敷地周辺ではサクラの花びらの数が違うという報告があります。

─ 奇形ということですか。

水口 奇形ではなくて異状です。なにをもって奇形とするか、人間なんてある意味では奇形の生物ですよ。社会との関連では、野生生物にひとつの異状が起こったときに、人間にも影響が及ぼされます。

 TBT(有機性すず化合物)はもともと貝を殺すために開発された薬品でした。アフリカで兵士が活動するときに寄生虫に悩まされる。その中間宿主の巻貝を殺すためにドイツで開発されたものです。フジツボなどの貝類が付着しないように、船底へ塗っていた。その結果、メス巻貝類のオス化現象(インポセックス)が広く発生しました。

 野生生物に出る影響が人間でも同じことが起こるとは限りませんが、考える入り口、出発点にはなります。 TBTでは人間に影響が出る前に防ぐことができた。原発についても、今回のような事故が起こる前に、防ぎたいということで今までやってきたわけだけれど、残念ながら事故が起きてしまった。

 汚染の数値が低くても自然のものには放射能の影響は出ています。ゴジラが生まれなければいい、ということではない。原発近くのサクラの花びらの数の変化は、ふつうの人が数えて分かる変化です。小さいけど大きいそういった身近な変化は、だれでも肌身で感じとれます。

 むずかしい機器や計算式、誰かが決めた基準値はいりません。それぞれがそれぞれの立場で、これから始まる長い時間を放射能に立ち向かっていかなければならないということです。・・・

(千葉県いすみ市にて収録)

〈全文は『フライの雑誌』第93号に掲載しています〉

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用語説明・補足
※1 放射能の海への流入経路を推測する

 〈第一に、大気中に飛散して気流などにより海洋へ降下したもの。第二に、漏れ出たもの。第三に、地下水からの侵出。第四に、原発敷地及び周辺の高濃度汚染地域から雨水と共に流れこんだもの。第五に、水素爆発などで敷地内に散乱した汚染瓦礫から放水などで海へ流れ込んだもの。第六に、意図的に捨てられたもの。このうち第一から第四まではいまでも続いています。〉月刊『世界』6月号(岩波書店)掲載「海のチェルノブイリ」水口憲哉より

※2 基準値はいいかげん

 シーベルト(Sv)は放射能が人間に与える影響を示す単位ですが、非常に複雑な計算が必要です。そもそも人間にどれだけの影響を与えるかなんて数値化して単純にだせるわけがない。インチキです。20ミリシーベルトが妥当かどうかと騒いでいますが、六ヶ所村再処理工場では0・02ミリシーベルトなら大丈夫とPRしていた。あれは何だったんだ。3/24、海から50ベクレルの放射能が出たと発表されました。1㏄あたりです。1ℓだったら5万ベクレルです。東京都金町の浄水場で200ベクレルの放射能が検出されましたが、1ℓあたりです。海の汚染はそれより2ケタ多いのに、単位でごまかそうとした。(水口)

※3 「放射能がクラゲとやってくる」
 副題:放射能を海へ捨てるってほんと? 水口憲哉著/七つ森書館刊。長年にわたり再処理工場からの放射能廃液の海洋放出に関して情報発信を行ってきた筆者が海洋汚染の実態を調べる。品切。大幅増補して『世界』掲載論文も合わせ、七つ森書館から新刊として再刊する。仮題『これからどうなる海と大地─海のチェルノブイリへ立ち向かう』。

※4 生物濃縮と濃縮係数
食物連鎖の上位になればなるほど体内にとりこまれる放射能が濃くなっていく。六ヶ所村の再処理工場ではこの濃縮係数を30にしているが、イギリスでは180を使っている。通常は100で考えればいい。チェルノブイリでもスリーマイル島でもヨウ素131を吸い込んで体内の赤ん坊が死産になる現象が起きた。胎児性水俣病は魚を食べて取り込んだ有機水銀を母親が体内の赤ん坊へ結果として与えていたために発生した。(水口)

※5 日本にある原発
 「現在日本には、北は北海道から南は鹿児島県まで、13道県に17か所の原子力発電所があり、54基・4884・7万kWの発電用原子炉が運転、日本の電力の約3割を賄っています。」(社団法人日本原子力産業協会)。5月30日現在で35基の原子炉が停止中。今夏までに定期点検で新たに5基の稼働が止まる予定。(編集部)

※6 水産生物ごとの放射能汚染
 「海藻:ヨウ素131は、海藻に大量に取り込まれるので、今採られている海藻は茨城・千葉沿岸では食べない方がよいと当初は発言していたが、政府はこのようなたれ流しの状態が6ヶ月続くと言ったので、半減期8日は関係なく、半年は食べない方がよい。(6月初旬現在でもたれ流しが止まる見込みは立っていない)
イカナゴ:1キロ分500尾くらいを丸ごとミンチにして計測した結果、放射能まみれの表面積がべらぼうに大きく、またそのようなプランクトンと共に測ったたため、高い数値になった。これは濃縮も始まっていない食物連鎖(栄養段階)のとっかかりでしかなく、これから始まる水産物の放射能汚染の序ノ口といえる。筆者はこの時コメントを求められて、〝地獄の釜のフタが開いた〟と言ったが、それを報じたところは一つもなかった。
スズキ:水銀、PCB、ダイオキシン、どれでもスズキは鬼門である。
マグロ:大間や戸井など津軽海峡の漁師ばかりでなく、福島第一原発の事故により日本のマグロと原発が、国際的な総スカンを食う可能性がある。
 要はこれから半年くらいは、食物連鎖の始めの部分の汚染が問題となり、1〜2年後には、他の魚を食べる魚で放射能を測れば高い値が出るようになる。」
…「放射能に汚染された魚介類から身を守るために」(水口憲哉)『よつばつうしん』(関西よつ葉連絡会発行) 5月号より抄録。フライの雑誌社ウェブサイトに全文掲載中

※7 これまでも放射能はたまっている
 気象研究所で「死の灰」の降下量を測っている。核爆発実験とチェルノブイリで高くなって今回の福島でまた高くなる可能性がある。基本的にはあるレベルまでチェルノブイリの放射能がある。そこへ福島の放射能が積み重なる。チェルノブイリも核実験も日本列島としては西風を受けた場所にあるので影響は等しい。でも福島の場合は風向きの影響で、原発に近い場所はもちろん、飯館村のような放射能だまりも発生するし、千葉の市原よりも東京のほうが数値が高い場合がある。だから単純に西へ逃げたからといって安全だと言うわけではない。(水口)
 福島の原発事故でこのグラフはどんなことになるのか。人間が勝手に作り、勝手にばらまいた放射能で勝手に苦しんでいるだけだとも言える。放射能まみれの世の中で私たちはそれでも生きてゆかねばならない。(編集部)

※8 放射能汚染の現実化(資料抄録)
・〈玄葉光一郎国家戦略相は29日午前の閣議後の閣僚懇談会で、放射性物質の暫定規制値について「国際比較でも厳しすぎる。このままだと何も食べられなくなってしまう」と述べ、見直しが必要との認識を示した。「規制値が安全に勝りすぎている」と述べ、政治判断で緩和するべきだと訴えた。〉(朝日新聞3/29)

・〈厚生労働省は26日、福島県内で取れた魚のアユやヤマメ、ウグイから、食品衛生法に基づく暫定基準値を上回る放射性物質を検出したと発表した。いずれも市場に流通しておらず、影響はないという。〉(共同通信5/26)

・〈NGOグリーンピースは、福島県沿岸で採れたタラの仲間の魚や二枚貝のカキ、昆布、ナマコなど幅広い種類の海産物から、国の基準を超す放射性物質が検出されたとする調査結果をまとめた。タラの仲間はエゾイソアイナメで、基準の1・7倍のセシウムが出た。この魚は海底付近にすんでおり、グリーンピースは、汚染が海の底にも広がっている可能性を示すデータと分析している。〉(朝日新聞5/26)

・〈文部科学省は27日、宮城県気仙沼市沖から千葉県銚子市沖まで南北約300キロにわたる海底の土から、最高で通常の数百倍に当たる濃度の放射性物質を検出したと発表した。文科省は「海産物に影響が及ぶ恐れがある」としている。東京電力福島第1原発から海に流出した汚染水に含まれた放射性物質が広範囲に拡散していることが裏付けられた。〉(産経ニュース5/28)

・〈農水省と県は5月、淡水魚の検査を開始。いわき市の鮫川と夏井川のアユや北塩原村の檜原湖のワカサギ、同村の秋元湖と伊達市の阿武隈川のヤマメ、福島市の摺上川のウグイで基準を超える620〜990ベクレルのセシウムが検出された。水産庁によると、淡水魚は海水魚に比べて体内にナトリウムをため込みやすく、セシウムも海水魚より検出されやすいという。淡水魚は釣りの対象として人気がある。「渓流の女王」と呼ばれるヤマメやワカサギも人気が高く、観光資源の一つになっている。農水省などは、釣りを含めた漁解禁の時期の延期などで対応する方向だ。ただ川の場合、対象の範囲を決めるのが難しい。4月から解禁されたヤマメと、1年を通じて釣れるウグイは、釣りを含めた漁を当面やめるよう、地元漁協に要請した。〉(朝日新聞5/29)

◯ヤマメ、イワナの放射能汚染が発覚した際に国がだした声明〝市場には流通していないので問題ない〟には本当に腹が立つ。釣り人の人生をなめるなと言いたい。(編集部)

インタビュー後記

●福島原発事故に関して、海外メディアの報道内容は大本営発表のような日本国内のそれとまったく違います。今後海外への放射能汚染の賠償問題が発生します。政府の国内向けのごまかしは通用しなくなるでしょう。

●水口氏は原子力発電所や開発から生活の場を守る漁民の〝ボランティアの用心棒〟として、30数年間にわたり全国を行脚してきました。被災地の三陸沿岸にも知己を多くお持ちです。福島原発が次々と爆発した直後に電話したところ、報道のいいかげんさを怒っていました。

●また翌日連絡すると、地元で支援組織を立ち上げて被災地へ物資を送ると忙しそうでした。自宅を改装して被災者を受け入れる態勢を整え、そして「これからは困っているひとたちをどうやって支えるかを考える」と言いました。反原発の最前線に長年関わってきた水口氏にして、早くも前を向いて新しい行動を始めていることに、私は感動しました。

●〈放射能に立ち向かう〉のはたいへんなことです。哀しいことでもあります。しかし、あなたとあなたの大切な人たちを、忌まわしい放射能汚染から守るには、まさに〈放射能に立ち向かう〉以外の選択肢はありません。

●多くの方がご指摘のように、国や行政の情報にはまやかしが目立ちます。対応もあまりに遅すぎます。このまま身を任せて安全だとは思えません。

●どうか後悔のないように、信頼できる情報をご自身で集めてください。そしてご自身で状況を判断して、自分の行動を自分で決めてください。それが〈放射能に立ち向かう〉ということです。(編集部)

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『フライの雑誌』第93号〈特集◎東北へ行こう!〉