福島県の川と湖の釣りのいま(2016/09/10)

東京電力福島第一原発のメルトダウン事故から5年たった。福島県内の川と湖は、放射能汚染により甚大な被害を受けた。釣りそのものができない釣り場も多い。

いま福島県ではどの川と湖で釣りができるのか。どこで釣りができないのか。いつになったら、釣りができるようになるのか。どのような条件で釣りができるようになるのか。

原発は、生きる楽しみである釣りの自由を奪う。その現状と背景を確認したい。

『フライの雑誌』次号第110号では、メルトダウンから5年後の福島県の川と湖の釣りの現状についての記事を企画している。そのための資料を本欄にメモしていく。情報は随時追加していく。

> 淡水魚の放射能汚染まとめ 9/8更新

国からの出荷制限
「出荷制限」は、食品衛生法に基づく基準値を超える食品が地域的な広がりをもって見つかった場合に設定される。原子力災害対策特別措置法に基づき、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)から関係知事宛てに指示される。この指示に基づき、関係する都道府県知事は、その地域からの出荷を差し控えるよう関係事業者などに要請する。出荷制限を指示された県域・一部地域(市町村・地域ごと等)では、検査結果にかかわらず、その品目の出荷、販売等が制限される。

国からの摂取制限
著しく高濃度の放射性物質が検出された場合などに、「出荷制限」に加え、生産者が自ら栽培した農産物や家庭菜園で栽培された農産物の摂取についても差し控えることを要請するよう、原子力災害対策本部長(内閣総理大臣)から関係知事宛てに指示する。

出荷制限・摂取制限の解除は、国が示す解除の条件を満たし、安全性が確認された上で、当該都道府県知事からの申請に基づいて行われる。

消費者庁「食品と放射能 Q&A」

国から出荷制限・摂取制限の指示がでた魚種は、実質的に釣りができなくなる。釣りを制限する行政指示には国からの制限にくわえて、県からの採捕自粛要請もある。

2011年6月、阿武隈川漁協、猪苗代・秋元非出資漁協、桧原漁協の三漁協に「ヤマメ採捕の制限」が出された。この時、『フライの雑誌』編集部は福島県水産課へ取材している

出荷制限指示後の管理の考え方

1 採捕者対策
県は、関係漁業協同組合及び関係市町村に対し、やまめの出荷制限が指示された秋元湖、檜原湖及び小野川湖並びにこれらの湖に流入する河川、長瀬川(酸川との合流点から上流の部分に限る )及び福島県内の阿武隈川(支流を含む )においては、1)所属組合員にやまめを採捕しないよう周知すること、2)遊漁券の販売にあたって、また既に年券を購入した遊漁者に対してやまめを採捕しないよう周知すること、3)監視員による巡回指導を行うことを文書等により指導するとともに、ホームページ等により当該市町村でやまめを採捕しないよう広く周知を図る。

2 流通対策
県は、関係事業者等に対し、出荷制限が指示されているヤマメを扱わないこと、産地等を確認の上、適切な表示により、流通させることを要請するとともに、これら流通拠点の巡回指導を行う。

福島県水産課ウェブサイトから)

採捕制限のでた河川・湖沼については、「組合員、遊漁者共に、採捕しないように周知すること」を、県が指導する。ただし、漁業権対象魚種が複数ある場合は、制限された魚以外の魚種の遊漁券を漁協が売らないのは、「行きすぎた対応」だと言っていた。

その後の経過と、いまはどう考えているのか、改めて福島県水産課へ取材したい。

2016年8月20日現在、放射能汚染のために、魚がいるのに釣りができない福島県内の川と湖は、福島県水産課のウェブサイトで公開されている

魚種 河川・湖沼名 漁協名 (備考欄は省略)

(県から採捕の自粛を要請)
モクズガニ 真野川 真野川漁協

(国から摂取制限の指示)
ヤマメ 新田川 新田川・太田川漁協

(国から出荷制限の指示)
アユ 真野川 2011年6月27日 真野川漁協
アユ 新田川 2011年6月27日 新田川・太田川漁協
アユ 阿武隈川 2011年6月27日 阿武隈川漁協

イワナ 阿武隈川 2012年4月5日 阿武隈川漁協
イワナ 檜原湖、秋元湖、小野川湖 檜原漁協、猪苗代・秋元漁協

ウグイ 真野川 真野川漁協
ウグイ 阿武隈川 阿武隈川漁協
ウグイ 檜原湖、秋元湖、小野川湖 檜原漁協、猪苗代・秋元漁協
ウグイ 猪苗代湖 猪苗代・秋元漁協
ウグイ 日橋川 該当漁協なし

ウナギ 阿武隈川 阿武隈川漁協

コイ 阿武隈川 阿武隈川漁協
コイ 阿賀川 阿賀川漁協、会津漁協、西会津漁協
コイ 秋元湖、小野川湖、檜原湖、長瀬川 檜原漁協、猪苗代・秋元漁協

フナ 真野川 真野川漁協
フナ 阿武隈川 阿武隈川漁協
フナ 阿賀川 阿賀川漁協、会津漁協、西会津漁協
フナ 秋元湖、小野川湖、檜原湖、長瀬川 檜原漁協、猪苗代・秋元漁協

ヤマメ 真野川 真野川漁協
ヤマメ 新田川 新田川・太田川漁協
ヤマメ 太田川 新田川・太田川漁協
ヤマメ 阿武隈川 阿武隈川漁協
ヤマメ 檜原湖、秋元湖、小野川湖 檜原漁協、猪苗代・秋元漁協
ヤマメ 猪苗代湖 猪苗代・秋元漁協
ヤマメ 日橋川 該当漁協なし

リンク先のページには、「国からの出荷制限指示の解除があった魚種」、「県の採捕自粛要請を解除した魚種」も掲載されている。「国が示す解除の条件」と、県が定める「解除」条件とは異なると考えられる。

ではどのような条件が整えば、「解除」されるのか。

あってはならない原発事故と、過酷な放射能汚染が日本で起きてしまった。すべてに前例がない。国は、食品の放射能汚染の基準値を、都合次第でコロコロと変える。内水面の釣りなどというマイナーな分野で、混乱しない方が不思議だ。

2013(平成24)年に、内水面漁業権の一斉切り替えが行なわれた。水産庁は各都県知事宛に、「漁場計画の樹立について」という指示をだしている。そこには、

原発事故の影響により、現在、操業が制限されている水域又は自粛している水域においては、放射性物質による影響が順次解消されれば、漁業を再開させていくことになるため、漁場計画を樹立すべきです。

と記されている。

2013年時点の福島県の川と湖には、釣りができない状態の釣り場(漁場)があった。それらの川と湖の「漁場計画」はどのような内容なのだろうか。

漁場計画の策定から3年たってもなお、放射能汚染がおさまらず、釣りのできていない川と湖がある。それらの漁場の今後を、福島県はどのように考えているのか。

漁業権が設定されている川と湖では、漁業権者(漁協)は、内水面漁場管理委員会へ一定期間ごとに「漁場計画」を提出し、認可を受けることになっている。「出荷制限」・「採捕自粛要請」が出された釣り場での「漁場計画」は、果たして実施されているのか。

また、釣りができないのに、漁協は漁業権魚種の増殖義務を果たしているのか。

このようにひとつひとつ考えていくと、内水面漁業制度の実態との乖離のはなはだしさ、原発事故のもたらした被害の甚大さ、バカバカしさ、取り返しのつかなさに、改めて呆れ返るばかりだ。

福島県は日本の都道府県のなかで、東京電力原発事故の被害をもっとも大きく受けた。正直、原発事故直後から今なお、福島県の行政は内水面の釣りどころではない状態におかれているだろう。

福島原発事故から5年がたった。5年たって、東京電力はようやくあれがメルトダウンだったと認めた。福島原発事故の責任は誰もとっていない(とれるはずもない)。放射能汚染の被害は続いている。汚染される前の故郷は失われた。なのに鹿児島県と愛媛県ではふたたび原発が動き始めた。さらに順番待ちをしている。

たかが「釣り」である。しかし、「釣り」が人生にとってとても大切だと思う人もいる。わたしたちはどのような未来を選べばいいのだろう。福島県内の川と湖の釣りの現状について、調べ、考えてみたい。

(文責・『フライの雑誌』編集部 堀内)

制限した河川・湖沼の地図(福島県水産課)

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福島県阿武隈川。この美しい大河の全流域で2011年の原発事故以降、釣りができない。川から人が離れていく。
福島県阿武隈川。この美しい大河の全流域で2011年の原発事故以降、釣りができない。川から人が離れていく。
淡水魚の放射能―川と湖の魚たちにいま何が起きているのか  水口憲哉著
 
淡水魚の放射能―川と湖の魚たちにいま何が起きているのか
淡水魚の放射能―川と湖の魚たちにいま何が起きているのか