おしゃれのタネを蒔いて歩こう。

15日は調布市の京王多摩川へ行った。10年近く前のわたしは、京王多摩川駅から5分の多摩川に面したアパートへ住んで、赤ん坊を育てながら春はマルタを釣っていた。今でもなにかと縁があって時々来る。

今日の京王多摩川は、京王閣競輪場の広大なスペースを利用して、有名な〈東京蚤の市〉を開催していた。「わたし、きなりです。」みたいな女子とその半数くらいの男子が1万人以上集まるらしい。競輪グランプリ並みの人出だった。

駅前のお気に入りの「カフェ大好き」でかぼちゃプリンとクロックムッシュを食べ、「肉のはせ川」で揚げたてヒレカツ、コロッケ、アジフライを買った。ガード下の「プライド八百屋」は、もうずっとシャッターを閉めっぱなしで、今度はリニューアルではないらしい。

「休日は洗いざらしのリネンをさっと羽織って。」みたいな人々が京王閣に吸い込まれていくのを横目に、熱々のコロッケ袋を抱えて多摩川へ歩いていく。

今日のわたしは小脇にマルチピースのフライロッド袋を抱えている。横には生意気な方の近所の厨坊が歩いている。ルアーロッド袋をなぎなたのように振り回しながら、「釣れるかな!」と話しかけてくる。知らねえよ。釣りってのは釣れるときは釣れるんだよ。

午後は5月とは思えないほどに暑くなった。多摩川を中野島のあたりまで歩いて下り、ルアーとフライで探りながら京王多摩川まで戻ってくる計画だ。もちろん一匹も釣れなかった。世の中そんなにあまくない。釣りってのは釣れないときは釣れねえんだよ。

夕方、京王線の鉄橋下へ帰ってくると、「お食事はベジファーストを心がけています。」みたいなさっぱりした感じの若者たちが大量にいて、河川敷で思い思いにくつろいでいた。ふと土手の上を見上げると、あたらしい都市型の戸建て住宅が多摩川へ面してきらびやかにたくさん並び建っていた。

〈東京蚤の市〉は今年で九回目だそうだ。わたしがいなくなったこの10年の間に、調布市・京王多摩川かいわいは、いつのまにか「おしゃれな街」へ変貌したのかもしれない。

子どものころに埼玉県に住んでいたときは、わたしがその町から引っ越した次の年から、駅周辺のおしゃれな再開発が始まった。立川市に住んでいたときも、わたしが立川から引っ越した次の年から、立川駅周辺のおしゃれな再開発が始まった。調布でもわたしが引っ越したらこういうことになった。

わたしはおしゃれを呼ぶ人なのかもしれない。おしゃれのタネを蒔いて歩こう。わたしが歩いたあとにはおしゃれの花が咲く。おしゃれの青い鳥みたいだ。すごい特技だ。ただこういう特技を持っていると、自分ではおしゃれな街には住めない。

今日は楽しかった。

日野へ帰ろう。

5月の爽やかな日曜日の多摩川の風景、インスタ風。
昭和初期、京王多摩川周辺(当時は多摩川原駅)は近郊のレジャースポットとして人気だった。2016年5月、爽やかな日曜日の京王多摩川の風景。インスタ風。
けっきょく帰ってきてからハヤ釣り。
けっきょく帰ってきてからハヤ釣り。
超たのしい。
超たのしい。フライフィッシングっておしゃれな釣りだよね。
『葛西善蔵と釣りがしたい』 堀内正徳=著 (『フライの雑誌』編集人) ISBN 978-4-939003-55-4 B6判 184ページ / 本体1,500円+税 2013年6月10日発行
『葛西善蔵と釣りがしたい』
堀内正徳=著
(『フライの雑誌』編集人)
ISBN 978-4-939003-55-4
B6判 184ページ / 本体1,500円+税
2013年6月10日発行
『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉| 大特集:身近で深いオイカワ/カワムツのフライフィッシング─フライロッドを持って、その辺の川へ。|オイカワとカワムツは日本のほとんどどこにでもいる魚だ。最近になって、オイカワとカワムツがとても美しく、その釣りは楽しく奥深いことを、熱く語るフライフィッシャーが増えている。今号ではオイカワとカワムツのフライフィッシングを、大まじめに真っ正面から取り上げる。この特集を読んだあなたは、フライロッドを持ってその辺の川へ、今すぐ釣りに行きたくなるでしょう。 新連載 本流の[パワー・ドライ] Power Dry Flyfishing ビッグドライ、ビッグフィッシュ|ニジマスものがたり
『フライの雑誌』第106号|〈2015年9月12日発行〉|
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新連載 本流の[パワー・ドライ] Power Dry Flyfishing ビッグドライ、ビッグフィッシュ|ニジマスものがたり