【特別公開】放射能に汚染された魚介類から身を守るために (水口憲哉)

いまの水産物への放射能汚染は、序ノ口にすぎない

◯4月12日午前、経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委員会は、東京電力福島第一原発の事故について、国際的な事故評価尺度(INES)で最高のレベル7にあることを認めた。人類史上最悪の原発事故が、私たちが住んでいる日本で起きてしまった。

◯東京電力福島第一原発事故の恐ろしさは、発生から1ヶ月がたってもまだ収束していないことだ。原子炉が再臨界している可能性さえも指摘されている。今後の展開次第では、チェルノブイリをも超える、予想もつかない最悪の事態になることを、残念ながら否定できない。現時点で、政府も東電も福島第一原発をどう制御したらいいか分からず、右往左往しているように見える。

◯世界はいま日本に注目している。日本の国民は、電力会社や政府が〈原発は安全です〉と言うウソを信じていたら、いつのまにかこんな最悪の事故を起こした国の当事者にさせられてしまった。斉藤和義さんの行動東京・高円寺の1万5千人規模のデモなど、〈原発はもういらない〉の声が市民レベルで高まっている。原発にいのちを奪われるのはごめんだと、多くの方が声をあげ始めている。

◯3/30付け本欄で紹介した「放射能を海に棄てないでください」(水口憲哉)は、たいへん多くの方に注目していただいた。史上最悪の原子力事故だというのに政府・東電が発表する情報はあまりにも曖昧で、かつ遅すぎる。しかも相変わらずのウソ、隠ぺい体質は変わらない。私たちは情報を自ら求め、自分の身は自分で守った方がよさそうだ。

◯そのためのひとつの参考資料として、5/2発行予定の『よつばつうしん』(関西よつ葉連絡会発行)のために水口憲哉氏(東京海洋大学名誉教授)が書いた原稿を、水口氏と『よつばつうしん』編集部の了解を得て、以下に全文を掲載する。

◯福島第一原発が海へ垂れ流している放射能は、私たちの口に入る魚介類を今このときも汚染しつづけている。私たちはどのように身を守ればいいのか。子どもたちの命を守るために、何を食べれば、あるいは、食べなければいいのか。

(季刊『フライの雑誌』編集部/堀内正徳)

緊急出版! 選ぶべき未来は森と川と魚たちが教えてくれる
『淡水魚の放射能  川と湖の魚たちにいま何が起きているのか』
水口憲哉(国会事故調査委員会参考人/東京海洋大学名誉教授)書き下ろし

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(本文)

放射能に汚染された魚介類から身を守るために
 - 水産物の放射能汚染の現状と今後

水口憲哉氏氏(東京海洋大学名誉教授/資源維持研究所主宰)
『よつばつうしん』5月号記事より(関西よつ葉連絡会発行)

福島第一原発から7日間に漏れた放射性廃液は
セラフィールド再処理工場から棄てられた一年分

    現在心配なのは、原子炉のフタが吹き飛ばされ
    大量の放射性物質が飛散すること

 福島第一原発の大事故によって、すでに次の三点が起きてしまったこととして、その結果(ヒトの健康と生命)が心配されるが、今のところ予想がつかない。

1) 風と共に広く東京にまで飛散してきたヨウ素131の胎児や乳幼児に及ぼした影響。
2) プルトニウムの飛散と海への流入。
3) 海に流れ込んだ高濃度の放射能汚染水の一部として、2号機の作業用のピットのひび割れから、分かっているだけでも7日間に流れたとされる3000トンの放射性廃液は、1970年代に英国のセラフィールド再処理工場からのそれの一年間分の放射能量に相当するという試算もある。

 これらはすでに起こってしまったことである。
 4月11日現在心配なことは、原子炉のフタが吹き飛ばされ大量の放射性物質が飛散することである。筆者は200キロ強離れた外房のいすみ市に住んでいるが、避難圏内に入ってしまうような惨事は起こらないことを願うしかない。

 予想がつかないと言ったが、前述の3)についてはこれまでやってきたことや、この1ヶ月に発言したことを踏まえて、次のようなことを心配している。
 東日本そして西日本の人々が魚を食べなくても生きてゆけると、英国並みの水産物消費量となり、築地の入荷量が激減し、移転どころか廃場論がでてくる。以下具体的に、水産生物ごとに、放射能汚染の現状と今後について考えてみる。

水産生物ごとの放射能汚染の現状と今後

    いまはまだ食物連鎖(栄養段階)のとっかかり。
    これから始まる水産物の放射能汚染の序ノ口にすぎない

 海藻: 大量に海水から検出されたヨウ素131は、海藻に大量に取り込まれるので、今採られている海藻は少なくとも茨城・千葉沿岸では食べない方がよいと当初は発言していたが、政府はこのようなたれ流しの状態が6ヶ月続くと言ったので、半減期8日は関係なく、半年は食べない方がよい。
 採集が簡単な海藻の調査を、東電も政府も県もしようとしないことの意味は重い。
 
 二枚貝: 1978年8月、福島第一原発の南北放水口より200〜800メートルの海底から採取されたホッキガイから、マンガン54とコバルト60を筆者らは検出した。
 今回第一原発周辺の海底土やホッキガイ、そしてコバルト、マンガン、ストロンチウム等の調査が行われていない。ただし、東京湾の木更津沖のアサリでセシウム137が検出されている。その由来を明確にすべきである。それも3月30日採取であるから、現在はどんな値がでるかわからない。
 
 イカナゴ: コウナゴ、メロウドともいうこの小魚を1キロ分、500尾くらいを丸ごとミンチにして計測した結果、放射能まみれの表面積がべらぼうに大きく、またそのようなプランクトンと共に測ったたため、高い数値になった。しかし、これは濃縮も始まっていない、食物連鎖(栄養段階)のとっかかりでしかなく、これから始まる水産物の放射能汚染の序ノ口といえる。
 筆者はこの時コメントを求められて、〝地獄の釜のフタが開いた〟と言ったが、それを報じたところは一つもなかった。ただし、朝日が夜10時過ぎのオンラインでようやく、心配な人は食べない方がよいとあたりまえの発言をどうにかとり上げた。

 スズキ: 3月24日の茨城県三漁協の調査でスズキが映されていたが、調査結果の数字は公表されなかった。4月9日夜にNHKの番組で、チェルノブイリ後の日本周辺の海水とスズキのセシウム137の汚染の推移を示す、分かりやすい図が示された。
 その図からわかるようにスズキの濃縮係数は1000前後である。そのことには全くふれなかった。消えものは怖い。水銀、PCB、ダイオキシン、どれでもスズキは鬼門である。

 マグロ: チェルノブイリの時、汚染水の流れ込んだ黒海で漁業生産の7〜8割を獲っているトルコの沿岸漁民の受ける打撃は大きく、原子力エネルギー公社総裁は、〝パニックになる必要はない。四ヶ月かけて、カタクチイワシ、サバ、アジ、イワシなどの放射能調査を続ける。〟と声明を出している。
 2年後の毎日新聞は〈一個3000円〉と始まる記事で、黒海の出口イスタンブールの定置網で獲られたイワシやサバをたらふく食べたホンマグロの輸入を報じている。心配だったら金持ちは自分で調べればよいと話したが、このマグロは完全に放射能を濃縮していた可能性がある。チェルノブイリ事故の直後に来た日経の記者が、輸入ものを調査したが放射能は検出されていないと言っていた。まだ早過ぎたのである。
 大間のマグロが心配なので、昨年はホンマグロの回遊を徹底的に調べた。太平洋のホンマグロは1〜3才の時カリフォルニア沿岸まで行ってもどり、日本列島のまわりを摂餌しながら移動する大航海者である。Jパワー(電源開発株式会社)はひたかくしにしているが、2014年の完成をめざして青森県大間でプルトニウムを大量に使用する原発を、計画中である。
 鹿児島県川内原発では温廃水を避けて、マグロの幼魚ヨコワが大きく回遊路を変えてしまうことを、昨秋水産海洋学会で報告している。大間や戸井など津軽海峡の漁師ばかりでなく、福島第一原発の事故により日本のマグロと原発が、国際的な総スカンを食う可能性がある。

どうすることもできない。それが放射能

 要はこれから半年くらいは、食物連鎖の始めの部分の汚染が問題となり、1〜2年後には、他の魚を食べる魚で放射能を測れば高い値が出るようになる。

 セシウム137の半減期は30年、拡散して薄まることはあっても消えることはない。どうすることもできない、それが放射能である。日本の漁業はビキニマグロ事件でそのことを痛感したはずなのだが。

 全漁連会長や水産庁が焼けたトタンの上の猫のようにしている頃、旧祝島漁協組合長の山戸さんから電話をいただいた。あっけらかんとして元気だった。